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第三章 第二話*2

last update Date de publication: 2026-07-21 18:00:41

「やあ、エリオット。元気にしていたかな?」

 前回予告なしに訪問したことを咎められたからだろうか、モルは数日後ちゃんと先触れの便りを寄越した上で城を訪ねてきた。

 エリオットはダイニングで書斎から持参した本を読んでいる最中で、そこに出迎えたらしいゼフも傍についてきたのだが、なんだか複雑そうな顔をして去って行った。

「こんにちは、モル様。今日はどうされたんですか?」

 魔王なら書斎にいると思うが、とエリオットが告げつつ案内しようとすると、「ああ、いいんだエリオット」と制してくる。

 魔王の友人とも言える彼なのに、魔王に用事はないというような素振りをするのが不思議でエリオットがきょとんとしていると、モルは目の前に手のひらかを広げた。

 するとそこには小さな花かごが現われ、咲きほころぶ花々と、その下には小さな焼き菓子が詰められているのが見える。思わずエリオットが小さく歓声を上げると、モルはそれを差し出してきた。

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  • 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される   第三章 第三話*2

    「お気をつけて行ってらっしゃいませ、魔王様、エリオットさま」 ゼフに見送りの言葉にエリオットが微笑み、魔王が素早く姿を変える。 翌日の夕暮れ時、エリオットは竜化した魔王の背に乗りヴェルクレイン国の上空を旋回してくることになった。昼間でなく夕暮れ時になったのは、竜の姿を見てヴェルクレイン国の人々が騒ぎ立てることがないようにするためだ。不安定な情勢の国の上空に竜が現れたとなれば凶兆の前触れか、もしくは吉兆だとか、何にしても過剰に扱われてしまいかねないからというのもある。 支度を整えていざ出発となったその時、「おや、お出かけかな?」と、親しげな様子の声が聞こえる。振り返るとそこにはにこやかに微笑むモルが手を振って立っていた。『見ればわかるであろう。何用だ』 モルの登場に魔王の声が明らかに不機嫌に曇る。竜化した姿で睨み付けられれば怖気づきそうなものだが、そこは魔物同士であることに加えて付き合いが長いからか、意に介している様子はない。「そんな怖い顔をしないでおくれよ、アズ。一体どこに行くんだい?」『どこでだって貴様には関係なかろう』 苛立ちを隠さない魔王の口調を引き金に不穏さが生じやしないかと気を揉んだエリオットは、二人の間に割って入るように声を上げた。「そ、そうだ! モル様もご一緒にいかがですか? 私の母国の様子を見に行こうと思っていたところなんです」「ほう、それは面白そうじゃないか。是非ともご一緒させてもらいたいな」 エリオットの提案にモルが乗り気であることは明らかで、魔王には分が悪く思えたのか、ムスッと仏頂面になってしまう。『勝手にしろ。だがモルは自分で足はどうにかするんだぞ』 魔王が背に載せないと暗に言っても、モルは特に腹を立てることもなく、「承知しているよ」と言うに留める。 そうしてくるりとそ

  • 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される   第三章 第三話*1

     屋敷にいる頃であっても、誰ひとりとして母親殺しと呼ばれているエリオットのことを可哀想にと称したことはなかった。 幼い時分であれば、憐れまれないことをさらに自分で哀れんだりして気持ちをなだめてはいた。だがもういまは十九になるのだから、自分の置かれた場所を理解できないわけではない。 それでも、先日モルに「可哀想に……」と言われたことがいつまでも頭から離れない。ただそれは優しくされた名残を味わうものではなく、見下された同情から覚えるモヤモヤした感情とも言えた。「……はぁ」「どうしたエリオット。食欲がないのか?」 モルにあんなことを言われて数日。あれからあの言葉とモルから向けられた眼差しが頭から離れないエリオットは、ため息と上の空が増えていた。 魔王から窺うように声をかけられて我に返り、エリオットは慌てて止めていた手を動かす。「い、いえ。なんでもありません。それより、今宵のスープはいかがですか?」「うむ……先日のよりも味が良くなっておるようだな。パンもなかなかだ」 そう言いながら魔王がひと掬いスープを口に運ぶ様子を見つめながら、エリオットはホッと息をつく。ようやくこの頃、落ち着いて魔王とそろって食事を取れるようになってきたのだ。いままでは気に入らなければ顔をしかめられる、突き返される、苦言を呈されることばかりだったのでこれはかなりの進歩と言える。 なにより、わかりにくくはあるが誉め言葉ともとれるような言葉も添えてくれるようになってきたのも、エリオットには嬉しい出来事と言えた。 しかし同時に先日のモルの言葉――魔王の子を孕めば殺されるという言葉が過ぎり、どうしても手が停まりがちになる。 ヴェルクレイン国の情勢を思えば、いずれ早いうちに魔王と儀式を行う、つまり交わらなければならないだろう。だがそれがエリオットには文字通り命がけの行為とも言えることを考えると、自ら話を切り出してよいものか迷いが生じてしまう。「魔王様、この所のお身体

  • 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される   第三章 第二話*2

    「やあ、エリオット。元気にしていたかな?」 前回予告なしに訪問したことを咎められたからだろうか、モルは数日後ちゃんと先触れの便りを寄越した上で城を訪ねてきた。 エリオットはダイニングで書斎から持参した本を読んでいる最中で、そこに出迎えたらしいゼフも傍についてきたのだが、なんだか複雑そうな顔をして去って行った。「こんにちは、モル様。今日はどうされたんですか?」 魔王なら書斎にいると思うが、とエリオットが告げつつ案内しようとすると、「ああ、いいんだエリオット」と制してくる。 魔王の友人とも言える彼なのに、魔王に用事はないというような素振りをするのが不思議でエリオットがきょとんとしていると、モルは目の前に手のひらかを広げた。 するとそこには小さな花かごが現われ、咲きほころぶ花々と、その下には小さな焼き菓子が詰められているのが見える。思わずエリオットが小さく歓声を上げると、モルはそれを差し出してきた。「お気に召したようなら差し上げよう」「え、でも……よろしいんですか?」「なに、先日の無礼の詫びだと思って受け取っておくれ」 苦笑交じりにそう告げてくるモルにエリオットは微笑んでうなずき、早速受け取った花かごをじっと見入る。こんなに華やかな贈り物など、初めてかもしれない。「ありがとうございます。こんな素敵な贈り物、初めて頂きました」「おや、そうなのかい? なんだアズは贈り物の一つも君にしてないのか。全く無粋なやつだな」 呆れたようにため息をつきつつエリオットの向かいのソファーに座るモルは、相変わらず品の良い装いをしている。 魔王だって装いに品がないわけではないが、いかんせん黒ずくめが基本であるせいか、代わり映えがない姿に思えてしまうのだ。そういったところも、モルにしてみれば無粋だというのかもしれないが。「魔王様ならばい

  • 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される   第三章 第二話*1

     結局、母国への手紙の件は、城に帰ってからの夕食の支度の忙しさを理由にうやむやになっていた。 しかしそれでもエリオットの中にヴェルクレイン国の現状に対する憂いは消えず、不安と心配が募っていく。 母親殺しと呼ばれ続け疎まれてきた自分に課せられたただ一つの王命を、もう嫁いで半年も経とうかというのに未だに果たせていないなんて思いもしなかった。自分では懸命にやれることはやっているつもりではあったが、それはやはりただの「つもり」でしかないということなのだろうか。 そんなことを悶々と考えつつ、今日もエリオットは書斎で書物を手に取る。ヴェルクレイン国の情勢が安定していないというのであれば、より魔王の魔力を強化する必要があるのではないだろうか。そのためには何か他に効果の高い方法があるのではないか、そう、考えているからだ。「魔力の最大化……うーん……やっぱり、魔王様とあの儀式を行うことが一番みたいだな……」 どの書物を読んでも、最終的に導き出されるのはあの儀式――魔王と睦み合う、性交をして相手が子を成すことで魔力が最大化するというものだった。 子を成すということは、やはり生贄嫁が必要であるのだろうが……エリオットは生憎男性である。子を成せる機能が体にあるとは思えない。「でもそれは、魔王様が最初にあった時に問題ないみたいに仰っていた気がする……それこそ儀式でどうにかするのかな……」 儀式の詳細は、ゼフに尋ねてもわからないと言われているし、そもそも書物に儀式のこと自体書かれていないのだ。魔力については魔王であってもその他の魔物であっても大差がないのか、書物から得た知識でどうにか対処出来てはきた。だが儀式については魔王だけが知る秘事なのか、まるでそれだけが抜け落ちたように見当たらないのだ。「となれば後は魔王様本人に聞くしかないけれど……教えて下さるかな……」 初日にあんな騒動になったせいか、なんとなく魔王に儀式について聞いていいものかためらってしまう。いやなこと

  • 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される   第三章 第一話*2

     魔王は高い山の上にあるのだが、その周囲は城壁のように高い壁に囲まれている。更にその周辺には深い森が広がり、人はおろか他の生き物でさえも容易く近寄れる環境ではない。 だからなのか、城の城門を出て脇道に入ると、すぐに|藪《やぶ》に行き当たる。藪は複雑に枝葉を伸ばした樹々が生い茂り、まだ昼間であるのにその下に日はほとんど射していない。そのせいか周辺の空気は城内よりも幾分ひんやりしている気がした。「日が射してないからか、なんだかひんやりしますね」「それもあるだろうが……ほれ、見てみろ」 そう魔王に足元を指されて目をやると、エリオットと魔王の脚の間を何やら白濁の|靄《もや》のようなものが漂っている。靄よりも少し輪郭がはっきりしているそれは、まるで意思を持っているかのように、エリオットの脚に絡みついてくる。「え、な、なに!?」「じっとしておれ、エリオット」 靄に絡まれ戸惑うエリオットに、魔王は動くなと言ったかと思うと、さぁっと手を靄の上をなぞるように払う。 するとどうだろう。靄はまるで魔王の手に吸い込まれるように消えてしまったのだ。 まるで奇術でも見せられたかのような事態にエリオットがポカンと呆けていると、魔王は更にまた新たに絡まってきた靄にも手をかざし、吸いこんでしまった。「ま、魔王様……いま、何をされたんですか?」「瘴気を取り込んだ。お前が先程申していたであろう、魔力増強には瘴気を取り込むのが一番だと」「ええ、そうですけど……いまのがそうなんですか?」「ああ。瘴気は人間が長く充てられると病を得たり正気を失くしたりすると言われておる。さっさと処分するに限る」「そうなんですね……。ありがとうございます、助かりました」「……べつに、造作ないことだ」 エリオットがホッと安堵しながら礼を言うと、魔王はふいっと顔を背け、またエリオットの手を引いて歩きだす。一瞬、

  • 偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される   *第三章 二人の間に差す影 第一話*1

     エリオットの魔力回復食のお陰で基礎的な魔力が回復したらしい魔王に、エリオットは更なる提案をしてみた。「城の周りを散策する? 何のために」「魔王様はもう随分と魔力が戻られたようなので、もっと鍛えるようにしてはいかがかなと思いまして」「それと散策が何の関係がある」「えーっと……こちらの書物によれば、『基礎魔力の増強には更なる魔力の補強が欠かせない。例えばそれは微弱な瘴気を取り込むことでも可能である』……とのことなので、試しにお城の周りに漂っている瘴気を扱ってみてはいかがでしょうか」 魔王の魔力回復のために、魔物の書物を読み解き始めて数ヶ月。随分と様々な文献を読み解くまでになってきたエリオットは、先日見つけた魔力回復の書物を手に魔王に提案をしてみたのだ。 それによれば、基礎魔力の土台作りは魔力増強が期待される食事を取ることで、更なる増強は魔力そのものを取り込むのが手っ取り早いというのだ。 しかし魔王はどこか乗り気ではなさげで、エリオットの提案に肯こうとはしない。「魔王様は魔力の取り込み方をご存知ですよね? 魔の物は生まれながらにそれは可能だって、別の書物にもありましたよ」「あー……まあ、確かにそうではあるんだが……」「じゃあ、いいじゃないですか! 朝食の前と、午後のお茶の前に散策しましょうよ」「一日二回もするのか?」「ええ、その方がきっと早く魔力が増強されますよ」 ね? と、エリオットが魔王の顔を覗き込むように念を押すと、魔王は渋い顔をして黙り込んでしまう。 たかだか城の周辺を歩き回るだけでなぜそんなに渋るのだろうか。基礎体力が備わっているいまの魔王であれば、瘴気にあてられて倒れるようなこともないと思われるのに。「魔王様、散策はそんなにお嫌ですか? 私も一緒に参りますので、退屈はしませんよ」「なに? お前も来るのか?」「ええ。だって魔王様は一人だと退屈でつまら

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